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2001.01

フロリダ州の投票用紙:災害を解剖する

著者について:私は民主党員でも共和党員でもない。私は何党にも属していない。私は、先頃の選挙プロセスが引き起こしたメルトダウンから何かを学ぶことができると思い、以下の厳しい文章を書いた。

全国区と Florida 州の人気投票で破れた男がアメリカ合衆国の大統領選挙に当選した。しかしそれは、Florida 州 Palm Beach 郡の投票用紙が混乱を招くような作りをしていたために、Gore 候補を指示していた人々が間違って Buchanan 候補に投票してしまった結果だというのだ。

Gore 候補に投票したアメリカの有権者たちの心の痛みはよく分かる。しかし George Bush 候補の支持者たちも、今回の「棚ぼた」に喜んでいてはいけない。早期の、そして劇的な変更が施されない限り、彼らにも同じことが起こるかも知れないのだ。実際、今回のような異常な事態によって発生するたくさんの竜巻のひとつが、4年前にも起きていたのだ。

私がこの文章のタイトルに「災害」という言葉を使ったのは、George Bush 氏が合衆国大統領になったことが災害だという意味ではなく、一握りの判事によって裁定してしまった今回の選挙はアメリカ民主主義のあるべき姿ではないという意味である。(「私の保守的な判事は君のリベラルな判事を打ち負かすことができる!」)Al Gore 氏はその日ようやく過半数の票を獲得するはずだったが、その課程はまさに災害のようなものであった。ひとつ違う点があるとすれば、その被害が国民の半数にまで及んだということだろう。

災害は突然やってこない

私が飛行機について最初に習ったのは、飛行機がただ空から墜落するということはないということだった。(ちなみにこれはパイロット実習生向けの新入生歓迎ニュースに書いてあったことだ。)ほとんどの飛行機事故を調査すると、いくつかの間違った行動や出来事の跡をたどることができる:その夜は暗く、視界は霧で遮られており、下は海で目印にできる地上の明かりもなく、John Kennedy, Jr. はわずか数時間しか航空計器について訓練しておらず、彼の有視界飛行ライセンスに違反した違法飛行だったことが彼に助けを求めることを躊躇させ、...そして複数の重大な間違いと状況が積み重なって、歌手 John Denver の航空死亡事故は起きた。

1979年3月に Pennsylvania 州の Three Mile 島原子力発電所で炉心溶解(メルトダウン)が起きかけた事故の調査では、一見関連性のなさそうな出来事が重なって惨事を引き起こしたらしいということが報告された。また人間工学からは、オペレータの訓練不足や、混乱しやすいように配置されたコントロールの誤った配置などが指摘された。多くの災害と同様に、ちょっとしたことが引き金になって複数の出来事がショートしてしまえば、あとは何もかもがおかしくなってしまうのである。

スペースシャトル「Challenger」の爆発は、 O-リングが過度の冷却によって破損したことが原因だったが、そのことが7人の宇宙飛行士を失ったストーリーのすべてではない。事故は、夜通し行われたエンジニアリング会議において O-リングは大丈夫だと判断されたその後に起きたのである。会議の中で参照された表は、当時の状況で発射をすれば事故が起きるということを証明していた。ではなぜ発射したのか? それは、その表のデザインが悪くて誰もその重大な情報を読みとれなかったからである。その後 Edward Tufte によって作り直され、すべてが分かるようになった。

フロリダ州投票用紙災害の要因

報道機関は Palm Beach の問題を投票用紙のデザインが悪かったからだと定義づけている。確かにあのデザインは今回の出来事でもっとも重要な要因である。しかし、多くの災害と同様、その他の複数の出来事がそれぞれの役割を果たしていたのだ。

・パンチカード投票システム

パンチカードによる投票システムは1964年の大統領予備選挙で初めて導入され、すぐに普及していった。

このシステムが広く利用されるようになると、ある特殊な性質が分かってきた:カードが読み取り機に入れられる度に、機械が違った結果を出すのである。その原因は単純だった:悪名高き“穿孔くず(紙テープやパンチカードに穴をあけたときに生じる小さな紙のくず)”が空けたはずの穴をしばしば塞いでしまうのである。

Palm Beach の選挙管理委員はこのシステムの問題を知っていたのだろうか? おそらく知っていただろう。ちょっとウェブで調べてみたら、1988年に National Institute of Standards and Technology (NIST)が 「投票用紙の自動読み取りシステムは穿孔くずの問題があるために排斥すべきだ」と強く勧告していることが分かった。

残念ながら、彼らの要求は何の強制執行力を持っていなかった。そのためその後も穿孔くずはパンチ穴を埋め続けた。1996年の後半において、合衆国の 37.3% の投票者がまだパンチカード式の投票用紙を利用していた。

Palm Beach で投票用紙災害が起きた時、民主党支持者たちはこの穿孔くずに望みをかけた。彼らは数万人の投票者が複数穴を空けてしまった投票用紙を修復することはできなかったが、公正な票の数え直しによって彼らの候補者が勝利を掴むことを期待した。なぜか? それはそのパンチカードシステムを採用した郡ではもともと民主党が優勢だったからである。多くの人々が Gore 候補に投票したため、不当にパンチされた投票用紙のほとんどは本来 Gore 候補のためのものだったと思われた。

パンチカードのシステムはその性質上欠陥があると古くから全国的に知られていたにもかかわらず、多くの他の郡がそうであったように、Palm Beach ではそれを使い続けていた。なぜか? それは過去にその問題が大きく取り上げられたことがなかったからである。だが本当は、St. Louis、Atlanta、Los Angeles などで機械の問題から選挙結果についての異議が申し立てられたことがある。しかし歴史の流れを左右するようなことはなかったのだ。それで誰も警笛を鳴らさなかったというわけである。

・低所得のパラドックス

実際には静かな変革は起きていた。1990年代初頭までに、アメリカ国内で財政に余裕のある郡ではパンチカードのシステムをすでに撤廃していたのだ。より財政難の郡では、その予算が無かったのだという。

そうしている間に、パンチカードシステムについてのもう一つの重要な性質が明らかにされてきた:経済的・社会的クラスの高い人ほど、パンチカードシステムを正しく利用できるという現象である。そのため、パンチカード式の投票用紙は、その使い方をきちんと理解できる人々の多い土地でしか導入しないように求められた。だから社会的・経済的に恵まれない土地である Florida 州 Palm Beach 郡の選挙管理委員は、投票システムを変更したいと思っていた。だがそんな金がどこにあるというのだ?

・Palm Beach の投票表紙のデザイン

穿孔くずの問題だけが2000年大統領選挙のバランスを崩したのではない。Florida で Al Gore 氏に投票しようと投票所に向かった人は実際には数千人以上多かったと見られるが、全くひどいデザインがすべてをひっくり返してしまったのだ。

Palm Beach の投票用紙

二番目の穴が二人目の候補者のものだと勘違いしたために、約 4,000 人が間違って二番目の穴をパンチしてしまったというだけでなく、約19,000 人が二番目と三番目の両方の穴をパンチしてしまった。なぜならそのふたつの穴が彼らの指示する候補者のすぐ横に位置していたからだ。

これが、ユーザテストをしなかったために起こる出来事の情けない事例なのだ。

事前のテストがなかったにしろ、デザイナーはなぜこの問題に気づかなかったのだろうか? なぜなら彼らはデザイナーであり、ユーザではないからである。見て分かるように、彼らにとっては10人の候補者すべて(と記入欄)が重要であり、それらを一枚の投票用紙の中で一覧できるようにうまく収めることばかりを考えたのだろう。2×6 の互い違いに配置された行列の左右中央にラジオボタンが並んでいる。そして小洒落た矢印が各候補者に対応するパンチ穴を指している。

投票者の視点は全く異なっている。彼らは10人の候補者全員に興味があるわけではない。彼らにとって重要なのは、今から投票しようとしているただ一人の候補者である。彼らの関心は、目的の候補者の名前を見つけてその横にある穴をパンチすることだけに注がれるのだ。Gore 候補の場合なら、左側の列で上から二人分だけ目を移動させれば見つかる。Gore 候補に投票しようとした人々にとって、右側の列を見なければならない理由は全く無かった。そして実際見なかったということを示す 23,000 の小さな証拠があるのだ。彼らに見えたのは互い違いになった行列ではなく、ラジオボタンを伴った単独の列だったのである。

そんなわけで私は今、まるで土曜日に行われたアメフトの試合結果を月曜日の新聞で読んであれこれ論評するようなことをしているのだ。今になってそのデザインがどんなに馬鹿げているかを言うのは容易い。試合はすでに終わっているのだ。

ユーザテストが重要だという理由はそこにある。本番の試合に臨む前に予行試合をすることができるのだ。経験豊かで優秀なデザイナーであれば問題を事前に予測できるかもしれないが、ユーザテストをすれば、ビギナーであってもそのデザインを事前に検証することができる。ユーザテストが行われていれば、今回のようなことは起きなかったはずだ。そして有権者の意志がきちんと反映されたはずなのである。

(私がこの投票用紙のレイアウトに携わった人間のことを「デザイナー」と呼ぶのを非難する者もいる。私は誰がそれをレイアウトしたのかについて何も知らない。私はデザイナーとして、この人間が我々と同じデザインの専門家ではなかったのだと思いたい。私が「デザイナー」という言葉を使うのは単に、それが誰であれ、デザイナーとしての役割を担ったことに変わりはないからである。)

・共和党が経験した例

今のところ Palm Beach 郡は今回の事態についての責任を追求されていない。過去には問題がなかったからだというのだが、果たして本当にこれまで同様の問題はなかったのだろうか?

実はあった。1996年の選挙において全く同様の問題が起きていたのである。その例では、共和党の Robert Dole 氏を支持する投票用紙のうち 14,000 枚に複数のパンチ穴が空けられていたため無効になった。なぜ共和党支持者たちはそのように間違った行動をとってしまったのだろうか。それは Dole 氏の名前が投票用紙上で上から二番目に印刷されていたからである。つまり今回の Gore 氏と同じ状況であった。

これだけの数字から、Florida 州 Palm Beach 郡において何か見えない力が働いていると言えないだろうか?

・Jeb Bush 氏が結果を左右した

もし Jeb Bush 氏が 1998 年の州知事選に負けていたら、Al Gore 氏は当選していただろう。なぜか? 投票用紙上では、現知事の所属政党からの候補者名が一番上に印刷されるからである。1996年、知事官邸には民主党の Lawton Chiles がいた。そのため共和党の Dole 氏は多くの無効票に泣いた。今回は Jeb Bush 氏が現職知事であったために、Gore 氏の名前は投票用紙上で二番目に印刷されていた。そして結果も二番目であった。

災害というものはこのように小さくて込み入ったいくつもの要素を持っており、その点が非常に興味深い。

・災害を回避する

たとえ投票用紙それ自体に何か仕掛けをしなくても、良いデザインがあれば事態は緩和できたかもしれない。投票用紙を見るだけで注意事項が分かるようにすればよいのだ。小さな矢印についてはそれが正確にパンチ穴をさしていないことがあることを明記して利用者によく確かめてから穴を空けさせたり、「ふたつ以上穴を空けないこと」といった説明文やもし間違ってしまった時に別の投票用紙をもらうための方法などを書いておくこともできる。また他の多くの州と同様に、穿孔くずの取り除き方についての知識を広めておくこともできるだろう。

残念ながらこれらを実現するには選挙区内の職員を講習する必要があり、特に Palm Beach 郡などでは少ない予算で行わなければならない。

投票用紙についての提案

・国内での投票形式を標準化すること

人々は移動体だ。引っ越すたびに違うシステムを習得しなければならないようではいけない。

・機械の精度を向上すること

・プライバシーを保全すること

・開票方法を検討検討すること

Florida 州の出来事は、もし誰かに選挙を“ハック”されたらどうするかということを考えるよい機会だ。たとえ機械によって集計された結果であっても、必要があれば各投票所が手作業で確認作業をすることができるべきではないだろうか。

・各郡の投票用紙にプロフェッショナルなデザインを採用すること

Palm Beach の投票用紙を見てデザインの悪さ指摘する者は、実際に20フィート分も投票用紙のデザインをやってみるといい。デザイナーはフォーム類のレイアウトとインタラクションデザインについてもっと技術と経験を高めなければならない。言い訳は通用しない。

・ユーザテストを行うこと

Palm Beach ではどれだけのユーザテストが行われるべきだったのだろうか? 投票者の10人に1人は投票用紙のデザインに何らかの問題があったと言っており、約100人に1人が全く理解できなかったと言っている。プロのユーザビリティ試験官は、10分間に20項目のテストを行えば間違った行動のひとつひとつがきちんと判断できる。

このようなテストはコストに見合うだろうか? Florida では間違いないだろう。今回の出来事で余計に掛かったコストは数百万ドルに及ぶ。もっと小さな選挙であってもその利益は大きい。調査によれば、ユーザは悪いインターフェイスに出会った時でも間違った行動をとることは少ない。彼らは単に時間を掛けるだけだ。(Florida での結果がこれを実証している。10人に1人が投票用紙に問題を感じたにも関わらず、実際にエラーを起こしたのはわずか100人に1人だ。)

彼らの行動に余計な時間が掛かれば、職員や機械が余計に必要になる。それにはユーザテストをするよりももっとコストが掛かる。

ウェブに適用できること

ほとんどのヒューマン - マシン・インタラクションの問題は、全国的な選挙の結果を左右するといったほどの重大性帯びることはない。しかしその典型的な特徴は共通している。Palm Beach で起きたことは、その結果が及ぼす影響があまりにも大きいという意味で特別なことだが、同様のメルトダウンはいつも起きているのである。結果はデザインの悪さという単純なものにとどまらない。そして過去の歴史を見てみれば、そこには度重なる警告を無視したために最悪の局面を迎るに至った経緯がある。

CompuServe のデザインはひどいものだったが、初期のネットワーク利用者には非常に愛されていた。CompuServe 側でもデザインがまずいことを知っていたが、それを改善しなくても“次の四半期”に利益を上げられるということも知っていた。しかしある日 AOL が現れた。そして CompuServe の顧客は、それまで何が欠けていたのかに初めて気づいた。そしてすぐに CompuServe は坂道を転がり落ち始め、コンテンツマーケットから姿を消した。

素人の作ったようなひどいウェブサイトは毎日目にする。企業は開発プロセスを通して明らかに欠けている事柄に顔をそむけている。ほとんどの場合、自社にはユーザテストをする財政的余裕はないと早い段階で決められてしまうのだ。

この決定の報いは死だ。ウェブはもはやアマチュアの遊び場ではない。Amazon や Ebay は、人々がウェブに要求するサービスのレベルを押し上げてしまった。もしあなたが人々に下手なデザインを披露すれば、彼らはそっぽを向き、あなたは職を失うだろう。

もしあなたが自分のウェブサイトのために外部の制作会社を使うのであれば、その会社にユーザテストについての計画を聞いてみるといい。もし何の計画も持っていないようであれば、すぐに走って別の制作会社に行くべきだ。

私は企業に対して成功するデザインのための手順や方法を指導するコンサルタントとして生計を立てている。これまでの経験で、反復デザインのメソッド(デザイン - テスト - デザイン - テスト)が効果的であるのを知っている。これはそれほどコストがかからず、そして完成までの時間を短縮する効果がある。

もし自社の制作プロセスとして反復デザインを使っていないのなら、試してみてほしい。やり方が分からなければ調べてくれ。そんなに難しいものではない。少なくとも転職先を探すよりは簡単だし、すぐにその効果を実感できるはずだ。


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