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Column
2001.04.02

Mac OS X の登場

先週いよいよ Mac OS X の正式版(バージョン10.0)が発売された。ご存じのとおり、このモダンアーキテクチャを基盤とした次世代 Mac OS の開発は紆余曲折を経て、Copland 計画(1995年当時予定されていた次世代システムである Mac OS 8)から数えれば 7 年以上もの歳月をかけた壮大なプロジェクトであった。

伝えられるところによれば Copland 、そしてその後に計画されていた Gershwin 構想では、OS の基幹アーキテクチャをモダンなものにすると同時に、ユーザの生産活動を支援するための全く新しいアプリケーションフレームワークを導入し、ドキュメント中心のモードレス環境(OpenDoc)や、インテリジェントなエージェント機能(ジェスチャや作業の脈絡からユーザの次の作業を推測して手助けする機能。これに似た機能が当時 Apple で開発されていた Newton OS にすでに含まれていた)が搭載されるはずであった。これらの研究は、Apple Fellow であった Alan Kay や Donald Norman の思想を色濃く反映し、それまでの GUI やパーソナルコンピュータという枠組みを大きく広げる野心的な挑戦であった。

しかし Apple 社の業績不振や開発チーム内部の問題などから Copland 計画は頓挫し、Windows OS の普及やインターネット利用の拡大とともに、Apple の OS 戦略は刺激的なトレンドを作る機会を得られないまま現在に至る。その間にも、Mac OS 8 から 9 を通じて Copland で示唆されたいくつかの機能は実装されたが、ユーザの作業概念を根本から変えるような大きな変化は現れなかった。ただしインターネットという巨大なインフラが登場したことで、OS が果たすべき役割は劇的に増え、また直接的に必要とされるネットワーク機能の実装が急務となり、ユーザを中心としたワークフロー(あるいは開発思想)全体の変革を行うゆとりは、今後もうないだろうと予想される。

NeXT 社の買収によって Apple はなんとかモダン OS の開発に成功したわけだが、長引いた開発によって資金面の問題もさることながら、プロジェクトを支える根本的な思想が大きく揺らぎ、最終的にはあまりビジョンの感じられないものになってしまったように思う。ユーザニーズやマーケティング観点からの出荷タイミングなど、コンピュータ環境を取り巻く様々な状況の変化によって、このような巨大なプロジェクトをひとつの明確なビジョンの基に一貫性をもって進めていくのは非常に困難であることは想像に難くない。卓越したマネジメント力とチーム内の強力なモチベーション、技術力、プロモーション力、資金力などが揃っていなければならないが、Apple がこれに完全に成功したとは言えず、それは Mac OS X の Aqua インターフェイスを見れば明確である。単にグラフィックデザインや細かなフィードバックの手法を変えただけの、バーチャリティ(仮想的な世界観。バーチャルリアリティとは別。)の一貫性に欠いた製品ができあがってしまった。

それでも安定性やより柔軟な開発環境を手に入れたという意味では歓迎すべきことだが、もはや Mac OS X をはじめとするデスクトップ GUI OS のインターフェイスは「Mac OS メタファー」とでもいう呪文に拘束されてしまったように思える。灰色のプラスチックでできたようなボタンが、青いゴムでできたようなボタンに変わっただけである。誰もデスクトップを「机の上」として認識していないにもかかわらず、慣習上、単にそういう名前の空間として扱っているにすぎない。その呪文の中で細かな使い勝手や整合性を各インターフェイス要素毎に個別に求めた結果、手続き型の操作性とランダムなハイパーメディアとしての操作性、モードレスな使い勝手とシングルウインドウの使い勝手といった互いに矛盾するインタラクションが混在し、結果として、ユーザはいつもまた一から学習しなおさなければならないのである。ウェブサイトのインターフェイスデザインとまったく同じジレンマがここにもある。

だが将来のインターフェイスにとっていくら良い概念や技術力があったとしても、現在普及しているものを完全に否定してそれを導入させることはもはや不可能なのかもしれない。「Mac OS メタファー」のパソコン、あるいは「Mosaic メタファー」のウェブはあまりにも世の中に浸透してしまった。残される道は、現在氾濫するおかしなインターフェイスをできるだけ減らすよう努力し、より問題の少ないインターフェイスのありかたを啓蒙し、最終的にはインターフェイスというものをユーザが意識しなくても自然にタスクを遂行できるような環境にしていくことかもしれない。これは消極的な考えではない。より戦略的な行動である。


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2001.04.02
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