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Column
2001.07.05

掲示板のインターフェイス

トップページ、サイトマップ、検索結果、コンテンツなど、ウェブサイトを構成するいくつかのインターフェイスについては、ここ数年のトレンドとユーザビリティテストによって、おおむね及第点を取るための模範解答例が見えてきている。もちろんサイトの内容やターゲットによって随時調整していかなければならない話だが、デザインと使い勝手のトレードオフを検討する際に着目すべき点はかなり明らかになってきたと言えるだろう。しかし今日一般的に使われているウェブ上のサービスの中で、掲示板(BBS)については多くの面で議論が足りていないように思われる。掲示版は普通、誰でも好きなことを匿名性をもって書き込めてしまうという理由から商用サイトではあまり見かけないが、個人の運営するアマチュアサイトではしばしば最も重要なコンテンツ(およびコミュニケーション機能)として認識されており、また企業の商用サイトにおいても、ユーザ同士の情報交換や、頻繁に追加される技術情報の掲示などに使われていたりする。

コミュニケーション機能として人気のある掲示板

複数のユーザによる書き込みが時系列的に残されていくという掲示板システムは、日本人のコミュニケーションにうまくマッチするようで、多くのアマチュアサイトをはじめ、膨大なスレッドを集めた掲示板集のようなサイトが人気を集めており、Yahoo! Japan やその他の大手ポータルサイトでも様々な話題についての掲示板が管理運営されている。

欧米ではどちらかというと、インターネットを使った個人的なコミュニケーションには ICQ のようなメッセンジャー技術が好まれているようで、掲示板は主に、オンラインのニュースまたはユーザからのコメント掲載や、テキスト情報としてアーカイブされる利点を意識した専門分野についての意見交換などに使われているようだ。

いずれにしろ掲示板はオンラインにおいて複数の(そして多くの場合不特定多数の)ユーザ同士によるコミュニケーション機能として広く定着している。しかし掲示板と一口に言ってもその機能性やインターフェイスには様々なものがあり、使い方が分かりにくかったり、意図せず入力したデータが消えてしまったり、表示が遅すぎたりと、ユーザビリティの問題は非常に多い。また書き込まれた内容をそのまま自動的に公開していくのか、あるいはコミュニケーションの即時性を犠牲にしてでも運営者が内容をチェックしてから公開していくのかといった、運用方針の問題、管理組織内の政治的問題も抱えている。

時系列表示型とスレッドリスト表示型

掲示板システムの代表的な種類を二つあげるならば、「時系列表示型」と「スレッドリスト表示型」になるだろう。時系列表示型では、それぞれのコメントが書き込まれた時刻順に表示され、通常 1 ページの中に 10 件から 50 件程のコメントが一覧される。スレッドリスト表示型は、それぞれのコメントが話題毎に表示され、ツリー状のスレッド一覧がまずリスト表示されるのが一般的だ。Yahoo ! Japan の掲示板などでは、時系列表示型とスレッドリスト表示型の両方の機能が融合しており、ユーザはまずスレッド一覧から興味のある話題を選び、その中で更にある特定のコメントにぶらさがる返答コメントだけを読んでいくこともできるし、すべてのコメントを単純に時系列にそって読んでいくこともできる。しかしこうした一連の操作を行うには、入れ子になったスレッドのツリー構造や時系列による情報順列についてのメンタルモデルをユーザが持っている必要があり、初めて訪れるユーザには恐らく難しすぎるだろう。彼らがデータベースやスプレッドシートを使ったことがなく、コンピュータにおける情報処理の概念に慣れていなければなおさらである。

また各種掲示板の機能を理解しにくくしている要因に、インターフェイスの問題がある。掲示板インターフェイスの振る舞いはサイトによって非常に異なっており、場合によってはまるで正反対の動きをすることもある。そしてそこには、即物的な使い勝手と、論理的デザインの間の大きなギャップを垣間見ることができる。

時間はどっちに流れる?

欧米のドキュメント文化では、情報は上から下に、左から右に進んでいく。この流れは時間軸にそっているのであり、ドキュメントは常に過去から未来へと流れていく。「次へ」という言葉は「進む」と同義に用いられ、未来への方向性を示唆している。「前へ」という言葉は「戻る」と同義で、過去への方向性を示唆している。縦書きに対応していない現状のブラウザ内では、日本のウェブコンテンツにも同様の法則があてはまる。横書きの文章を上から下に、左から右に読み進んでいくのは日常の自然な作業であり、「戻る」のボタンがページの左端に、「進む」のボタンが右端に配置されているのは、平面構成上の情報遷移と観念上の時間推移の両方を同時に表現するインターフェイスの基本的なテクニックとして一般化している。

しかし掲示板においては、その法則があやふやになっている。時によって情報が下から上に、右から左に逆流するのである。これまでにも同様の問題が HyperCard や FileMaker などのカード型メタファを使用したデータベースソフトについて指摘されてきた。現実世界におけるカードを使った情報集積の作業では、新しいカード(レコード)は束の一番上に積み重ねていくという考え方が自然だろう。しかし GUI 上のカード型データベースでは、新しくレコードを作成するとそれが束の一番下に挿入されるという概念を用いているのが普通だ。どちらの方が使い勝手として良いのかは意見の分かれるところだが、二次元の平面を仮想の情報空間に見立てた今日の GUI は、このような立体的なメンタルモデルの形成には向いていない。空間認知のベクトルが、人によって違ってくるからである。最新の情報は最も自分に近いところにあるはずだから、新しく追加されたカードは一番上に積まれるべきだ、という人もいれば、情報は上から下に追加されていくものだから、最後に追加されたカードは一番下に挿入されるはずだ、という人もいる。同様の問題が、各種メールソフトにおけるタイトル一覧のソート順においても指摘されており、今のところユーザによってその好みは分かれているようだ。

掲示板においても、各コメントを時系列に並べる場合、最新のものを前のコメントの上に追加していく場合もあれば、下に追加していく場合もある。各コメント毎の文章は当然上から下に向かって読むものであるから、複数のコメントを続けて読むことを考えれば、自然な視線移動のために、最新のコメントは下に追加されていく方がよいだろう。しかし物事はそう単純ではなく、最新の数件のコメントだけを読みたいという場合には、新しいものが上にある方がずっと便利である。ページの一番下までわざわざスクロールする必要がないからだ。そのため、気軽なおしゃべり感覚で利用されるような掲示板では、データベース的で論理的な表示構造よりも情報の即時性を重要視し、より素早いコミュニケーションのために、下から上に向かって時間が逆流するというインターフェイスが多く採用されている。

またページの一番下に「次へ」というボタンがあり、それを押すと現在表示されているいくつかのコメントよりも「過去に」投稿されたものが表示されるというインターフェイスもよく見かける。その場合は、「次へ」という言葉が「過去」を意味するという、一般的に認知されている情報のメンタルモデルに反する表現が用いられていることになる。また「次へ→」のように水平移動をイメージさせる矢印などがついていることも多く、上下方向だけでも混乱している情報と空間の対応が更にあいまいになる。もっとひどいものになると、より過去のコメントを表示するためのボタンが画面の左下に「←次へ」のように左向きの矢印で配置されていたりする。

トピックとスレッド

ひとつの掲示板の中に複数のトピック(話題)があり、それらの内容が同時進行している様子を一度に表示するようなインターフェイスは、特に分かりにくいようだ。例えば、まず一番上に、あるトピックの最初の投稿が表示され、その下に他者のコメントがぶらさがるという場合。一番上に最初の投稿があるということは、情報が上から下へ流れることを示唆しているわけだが、なぜか他者のコメント部分だけは下から上へと時間が逆流しているというデザインをよく見かける。更に、最新の数件のものだけを表示して、それより古いコメント(つまり一番上に見えている最初の投稿に時間的に近いコメント)を見るためには何らかの追加アクションが必要だという場合、インターフェイスとしての視点移動と、スレッドとしての情報推移の両方が多重に分断されて、はじめて訪れたユーザには全く文脈が掴めないという事態が起きる。そして、そのようにちぐはぐなトピックの断片が1ページの中に複数表示されている場合など、ユーザは情報構造に関する非常に複雑なメンタルモデルを頭の中に描かなければならない。

コメントのタイトルだけをツリー状のリストにして、その階層を各タイトル行のインデントとして表現ているものも多い。テキスト情報の集まりをトピック毎に時間軸に沿って表示するため、一覧性と検索性を重要視する掲示板では有用である。しかしインターフェイスとしての問題は、スレッドが長くなりすぎると階層(つまりインデント)が深くなりすぎて、タイトル行が画面の横幅に収まり切らなくなるということだ。また、その階層構造をユーザに意識させたまま各コメントを順に見せるには、常に画面のどこかにタイトル一覧を表示しておかなければならないという面倒もある。

その他

掲示板を活発に利用させて、そこに何らかのコミュニティを創出したいと考える運営者は多い。しかし現実には、コミュニティというものは意図的に作ろうと思って作れるものではない。よく言われることだが、運営者や主な書き込み者のパーソナリティが掲示板の使われ方に大きな影響を及ぼす。また、そこに集う人々のタイプや書き込まれる話題の内容は、運営者の考えとは無関係に、時間が経つにつれて自然に方向付けされていくのが普通だ。

コミュニケーションを円滑にするためには、インターフェイスをできるだけ透明化し、ユーザがその使い方を特に意識しなくても自然に閲覧・書き込みできるようにすることが理想だろう。つまり、まずは情報構造についての単純なメンタルモデルを提供する必要がある。そして上級者のためのより便利なオプション機能は、初心者が混乱しないような形で控えめに実装されているのがよいだろう。

いずれにしても掲示板のインターフェイスは、HTML によるグラフィック表現の限界、ブラウザの提供するフォーム要素の貧弱さ、そして掲示板という情報システムが潜在的に持っている利用概念の複雑さによって、ウェブにおける最も難しいデザインを要求している。

[このコラムへのコメントをお待ちしています。]


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